実習内容の理解を深めるためにみなさんにレポートを提出して頂いており
ますが,基本的な内容の理解ができていないのではないかと思われるレポー
トがあります.基本的なことなので,十分に理解してもらいたいと思い,こ
の補足説明を書かせて頂きました.
2.補足説明
理解されていないであろうと思われる点は,大きく分けて次の3点です.
2−1 引張試験結果を整理するために使われる応力
とひずみの意味
応力は材料の強さなどを表すために用いられます.
材料の強さ(降伏点,引張強さなど)は試験片の強さ(降伏荷重,最
大引張荷重など)とは違います.例えば,同じ材料から製作した,図1の
ような2つの引張試験片を引張った時,どちらの試験片の方が強いかといえ
ば,太い試験片の方が強いであろうことはわかると思います.しかし,どち
らの試験片も同じ材料から製作されたものでありますから,どちらの試験片
の材料が強いかといえば,どちらも同じであろうこともわかると思います.
同じ材料から製作した試験片であるにも関わらず,なぜ太い試験片の方が細
い試験片よりも強いのでしょう? 太い試験片が強いのは,その断面積が大
きいからです.材料の強さは,試験片の大きさには影響されないと考え
るのが普通ですから,試験片の強さから試験片の材料の強さを求めるため
には,試験片の強さに含まれている断面積の影響を消せばよいであろうこと
がわかります.つまり,引張試験で求めることができる材料の強さを表す
ためには,試験片の強さ(負荷荷重)をその試験片の断面積で割った単
位断面積当たりの負荷荷重,すなわち応力を用いると便利であることが
わかると思います.
ひずみは材料の変形量を表すために用いられます.
強さの説明の場合と同様に,材料の変形量は試験片の変形量とは違い
ます.図2のような断面積が等しく,長さが異なる2つの試験片を同じ荷
重で引張った時,どちらの試験片が大きく変形する(この場合は伸びる)
かと言えば,長い試験片のほうが大きく変形します.しかし,どちらの試
験片も同じ材料から製作されたものでありますから,どちらの試験片の材
料の変形量が大きいのかといえば,どちらも同じであろうこともわかると
思います.同じ材料から製作した試験片であるにも関わらず,なぜ長い試
験片の方が短い試験片よりも変形量が大きいのでしょう? 長い試験片の
変形量が大きいのは,変形部の長さが大きく,変形する方向に材料が多く
あるからです.材料の変形量は,試験片の寸法には影響されないと考え
るのが普通ですから,試験片の変形量から試験片の材料の変形量を求める
ためには,試験片の変形量に含まれている変形部長さの影響を消してしま
えばよいであろうことがわかります.つまり,引張試験で求めることがで
きる材料の変形量を表すためには,試験片の変形量(伸び)をその試験
片の変形部長さで割った単位長さ当たりの変形量,すなわちひずみを用
いると便利であることがわかると思います.
2−2 応力の単位.また,単位の変換
(工学単位⇔SI単位)
応力は,試験片に負荷される荷重を断面積で割った値であり,実習で
は,荷重の単位はkgf,断面積の単位はmm2であったのですから,応力の単
位は kgf/mm2 です.MPaは,MN/m2ですから,kgf/mm2をMPaにするために
は単位の変換を行わなければなりません.
1kgf/mm2 = 1G N/mm2= 1G × 106 N/m2 =1G MPa
(Gは重力の加速度:約9.81
m/s2)
2−3 両対数グラフの使い方
測定値から求めた真応力と対数ひずみをそのまま両対数グラフにプロッ
トすると,プロットした点は,ほぼ直線上に並びます.その直線の傾きが
n乗硬化則におけるn値となります.両対数グラフがあれば,n値を求め
るための直線を描くために,真応力の対数と対数ひずみの対数の計算をす
る必要はありません.
対数グラフの仕組みを説明します.まず,x
軸について考えてみます.
ある正の実数 x の,a(正の実数)を底とする対数を,
とすると,10x の対数は,
となり,対数に変換した後のxと10xとの間隔は,
となります.すなわち,対数に変換すると,例えば,0.01と0.1との間隔
と,0.1と1.0との間隔と,1.0と10.0の間隔と,……は一定です.図3か
らわかるように,両対数グラフのx
軸は,一定のパターンが繰り返された
ものになっており,このパターンの1サイクルの長さがCに相当します.
y 軸の説明は,x 軸の説明のx をy
に替えるだけです.また,1サイクル
の間は,対数目盛になっており,x から5xの間は0.1x
間隔で,5x から10x
の間は 0.2x 間隔で目盛りがふられています.
両対数グラフ上の直線からn値を求めるためには,この直線上の任意の
2点を取り,この2点の座標値から傾きを求め,その値をn値とすれば
正確に求めることができます.n値は,図3に示すv/hですから,もし,
2点の座標値を求めることができない場合には,v とh
の実測値から求
めることができます.